永遠の0

面白いか?面白いです、人生で一度は読んだ方がいいか?そこまでは思わないです。

読み始めて「面白い」と感じてどんどん読み進めて行くのですが、読み進めて行くにつれ「創作作品としてはどうかなぁ」と思い始めました。文庫本で約600ページぐらいですが、その内容はほとんど戦時の記憶の描写ですし、80前後の老人の語り口には感じられなかったからです。描写の部分は作者の創作というよりも、本書を執筆にあたって参照した文献がベースになっていることが想像できたこともあります。

しかし、後半でその感想は覆ります。後半の展開でそこまでの長い戦時中描写にこめられた「宮部久蔵」の人間像が浮かび上がって来て、この作品の「創作作品」としての価値を感じることが出来ます。

太平洋戦争の悲惨さ、特攻隊員の無念さ、上層部のいい加減さ、等々太平洋戦争の問題が凝縮された一冊ではありますが、これはあくまでも「フィクション」です。これ一冊読んで太平洋戦争が分かったつもりになるのは危険かなと思います。著者も本作を執筆するにあたって多くの文献を参考にしています、本作品はそういった文献を読んだ著者が自分の主観での太平洋戦争における特攻隊員の姿を物語仕立てにしたにすぎないのです。

作品に登場する何人かの有名なパイロットは実在の人物ですが、「宮部久蔵」は著者の創作です、実際にこういう人が居たわけではないのです。もちろん、旧日本軍にも正しい考え方の人は居たと思いますが「宮部久蔵」が居たわけではありません、当たり前の話なんですが。

本作品で著者が発したいことにはほぼ同意できます、でもこれだけでは太平洋戦争を理解するのは不可能、ということは認識しておくべきと思います。

最後に、日本のジャーナリズムに関して現在においても戦争当時と変わっていないという指摘(をしていると理解しているのですが)については全くその通りだと思いました。

面白いですが、読み取り方の難しい作品です、ただ「面白かった」で終わるべきではないと思います。

終末のフール

小惑星が地球に衝突して地球が滅亡する3年前、仙台のあるマンションの住人達の出来事を綴った短編集、なんだけどそれぞれのストーリーは繋がってるので長編とも言えるような作品です。
全体を通したテーマは「生きる」ということ。自分たちがあとどれだけ生きられるか?ということがわかった状態で、人はどんな生き方が出来るのか?ということがテーマになっています。

「終末のフール」
「太陽のシール」
「籠城のビール」
「冬眠のガール」
「鋼鉄のウール」
「天体のヨール」
「演劇のオール」
「深海のポール」

この8つの韻を踏んだタイトル作品で構成されていて、それぞれ独立した作品としても楽しめる(元々は小説すばるに掲載)のですが、登場人物とか出来事が微妙に重なっています。
一番気に入ったのは「演劇のオール」かな、これが一番読後感が良かったです、全体的に読後感が良いのは伊坂幸太郎作品の特徴ですね。

8年後に小惑星が地球に衝突して地球がなくなるとわかり人類が荒れに荒れた後、小康状態を取り戻したというとんでもない設定で「飲み物を確保するために自動販売機の前に列が出来てて、買い占めようとした人が殺される」みたいな話が出てくるんですが、「その割には自動販売機の前にみんなきちんと並んでるんだなぁ」とか少し違和感が無くもなく…^_^;

まぁ、かなりぶっ飛んだ設定なので細かいところを突っ込んでもしょうがないですが、作品全体としては気に入りました。最後にあっという繋がり方をするのかなと思ってましたが、そういうこともなく…

最後であっと驚くような展開になるものを求めているのですが、なかなかそういう作品に出会わないな、贅沢を言い過ぎかな^_^;

往復書簡

映画とか小説tかのストーリーに没入したくなって、久しぶりに読みました。「往復書簡」って何かで聞いたことあるなぁと思っていたら映画「北のカナリヤたち」の原案になった作品でした。映画の方は観ていないのですが、ネットで調べた感じでは「往復書簡」に収録されている作品とはかなり違うようですが…

内容は、「十年後の卒業文集」「二十年後の宿題」「十五年後の補習」「一年後の連絡網」の4つの作品の短編集。文章はすべて手紙のやり取りだけで構成されているので「往復書簡」なのです。

例によって詳しい内容には触れませんが、すべての作品に共通しているのは友人同士の間に起こった事件にまつわる過去の出来事の真相が手紙のやり取りで明らかになっていくというもの。相変わらず登場人物が多いので難しくて段々追うのが難しくなって行きます。^_^;

全体的には湊かなえ作品らしい斬新さがなくて物足りない感じかな。逆に湊かなえ作品の特徴である重苦しい感じも薄いので読みやすいといえば読みやすいですが、全体としては物足りない…

ちなみに、今まで読んだ中では「Nのために」が一番好きです、これ以上の作品を読みたい!^_^